不動産会社スタッフが掲載した物件写真の無断転載で訴訟に?リスクについて弁護士に聞いてみた

2023-05-252023-05-25

Chat GPTなどのAIで盛り上がる昨今、画像生成AIが生成した画像の著作権についてさまざまな議論がされるなど、今後、著作権侵害についてのルール化はより議論が進みそうですが、不動産業界でも家探しはネットで探すのが当たり前になっており、物件情報において唯一のコンテンツ(データ)である物件写真や間取り図や動画の著作権侵害や無断転載の意識が甘い場合、企業には法的リスクが伴います。
そこで、今回は全国に展開する弁護士ファームである AZX総合法律事務所様 に物件写真の著作権侵害や無断転載に関するリスクについて詳しく聞いてみました。

 
 

画像の著作権について

まず、物件写真などの写真データの著作権は基本的に撮影者に帰属します。ですので、他人が撮影した写真や、誰が撮影したかわからない写真を許可なく使用したり、転載することは無断転載および著作権侵害に当たります。
 
 
■「スタッフが独断で無断転載をした場合でも企業が責任を問われる可能性が高い」 
 
ーー不動産物件データベースやポータルサイトに他社が掲載している物件写真や間取り図を勝手に掲載することは良いのでしょうか。
 
(弁護士)データベースやインターネット上で公開されている物件画像を、著作権者である他社の許諾を得ずに無断で使用する行為は、著作権法上の複製権を侵害する行為であり、著作権法に抵触する可能性が高いものと考えます。
さらにその物件画像をインターネット等で公衆向けに送信(公開)した場合も、公衆送信権等を侵害する行為であり、こちらも著作権法に抵触する可能性が高いです。
なので、自社で撮影したことが明確ではない物件画像を使用する場合には、必ず著作権者の許諾を得る必要があります。
 
 
ーーでは、不動産会社で働くスタッフが他社の物件写真を勝手にコピーして公開してしまっていた場合、著作権侵害の対象者はその不動産会社になるのでしょうか。それとも勝手にコピーして使っていたスタッフなのでしょうか。
  
(弁護士)この場合は、著作権侵害の対象となるのは個人スタッフではなく、当該スタッフを雇用する不動産会社になる可能性が高いと考えます。スタッフが会社の業務として他社の物件画像を無断でコピーしている場合、当該スタッフを雇う企業が当該スタッフに命じて画像の複製や無断転載が行われていると判断される可能性は高いと考えます。
この際に重要なのは、その物件画像がどの人(企業)の名義で使用されるかがポイントとなっております。
不動産会社が物件情報をポータルサイトに掲載する時は、その不動産会社の名義で物件情報を掲載すると思うので、その情報内で使用されている他社の物件画像についての使用責任は企業にある可能性が高いと考えます。
 
 
ーーということは不動産会社は企業として、著作権侵害や無断転載がないように業務マニュアルの徹底や著作権物(データ)の取り扱い方について学ぶことも重要になりますね。
 
 
■「場合によっては刑事罰になる可能性も」
 
ーーでは、もし著作権侵害や無断転載で訴えられたらどのような損害リスクがあるのでしょうか。
 
(弁護士)民法の不法行為に基づく損害賠償請求がなされる可能性があると考えます。
著作権法では、著作権侵害行為により侵害者が得た利益や、本来その画像データを使用する際に必要な金額が請求されることとなります。
 
 
ーー「侵害者が得た利益」というのは、物件画像を使用して得られた仲介契約の手数料売上なども含まれるのでしょうか。
 
(弁護士)使用した物件画像によって得られた利益が仲介契約の手数料であれば、損害賠償請求がなされる可能性がありますが、実際は仲介契約の手数料売上は物件画像やポータルサイトへの掲載など複合的な要因で仲介契約に至っているため、物件画像によって仲介契約が得られたとは一概に言い難いので、損害賠償請求の対象にするのはハードルが高いと考えます。
また損害賠償請求以外にも、差止請求(著作権侵害となる物件画像の使用ができなくなる請求)や、刑事罰として侵害行為を行った法人に対して3億円以下の罰金や、同時に侵害行為を行なった者に対して十年以下の懲役もしくは千万円以下の罰金、またはこれら両方が科せられる可能性があると考えられます。
 
 
■「画像のDLと画像の使用(公開)は別で考えられる」
 
ーー物件情報を閲覧できるサイト上で、物件写真をダウンロードできるボタンが設置されている場合は、著作権者が別にいたとしても著作権侵害にはならないのでしょうか。
 
(弁護士)サイト上で「画像をDLできます」といった文言がある場合、著作権者が「画像をDLする」行為については許諾していると考えられることから、別途著作権者に許諾を得ることなく「画像をDL」することは可能であると考えます。
但し、この場合であっても、著作権者が著作物の利用について許諾している範囲はあくまでも「画像をDL」する行為のみである可能性が高いため、公衆送信等(インターネット上で公開する場合等)を行う場合には、別途著作権者の許諾を得ておいた方が安全であると考えます。
不動産業務においては、不動産会社が物件情報をサイトで掲載しているだけで、著作権者は「画像のDL」や「公衆送信等」の許諾をしていないにも関わらず、「画像のDL」等ができるサイトの設計になっている場合もある可能性がありますが、この場合は、「画像をDL」しただけでも著作権法に抵触する可能性が考えられますので十分な注意が必要です。
 
 
さいごに
 
著作権違反や無断転載は法律の観点からも責任のある行為ですが、他社が綺麗なデータにするために追求し、時間と労力をかけた著作物を侵害する行為がもたらす「企業の倫理」も企業イメージを損ないかねません。
今後不動産業界において、物件撮影代行サービスの普及によって物件写真を使用している会社が著作権者ではないケースも多くなり、それを知らずに無断転載していると権利トラブルに発展する可能性もあります。
十分な知識とリスク等を理解した上で画像などのコンテンツを取り扱いましょう。
 
【取材協力弁護士】
AZX総合法律事務所 小鷹龍哉弁護士